nonfiction:「見過ごされたシグナル〜検証・高速道路トラック事故〜」(「NNNドキュメント'04:中京テレビ制作)

http://www.ntv.co.jp/document/より.

大型トラックによる死亡事故が多発している。過労運転の末、居眠りによって引き起こされる事故が多い。愛知県に住む阪口さん夫婦はおととし、最愛の息子・若葉君(享年6)を失った。運転手の過労が原因だった。勤務する運送会社は労働基準監督署から二度にわたって改善勧告を受けていた。番組では、深夜輸送の実態、運送業者や荷主の本音、「暴走」を前提に成り立っている利便性などを見つめ、日本の流通の実態を多角的に検証。ニッポンの今を浮き彫りにする。

事故を起こした運転手は,直前の72時間は(2,3時間の仮眠を2回くらい取っていたと思うが)ぶっ続けで運転業務を行っていたのだった.なぜ,そんな過密な労働が強いられていたのか.そこには,

(1)物流業界における規制緩和:新規事業者の参入障壁となる規制の撤廃,事業区域の自由化によって,事業者間の競争が激化
(2)流通と消費形態の変化:必要なものを必要なだけ決まった時間に届けてほしい,という荷主の意向すなわち消費者サイドの意向が,物流事業全体を小口利用者ベースに合わせてしまった

というような構造変化があり,その構造に合わせることができない物流業界と物流の限界がある.

小口の輸送が多くなれば,物流業者が利益を生むためには,数多くの仕事を取らねばならない.(2)のような時間指定があれば,似たような時間帯でそうした小口の仕事をまとめて取らねばならない.当然,これには物流サイドが負担しなければならないコストが発生するから,物流業者は人件費を削ってドライバー2交替制を1人で仕事を請けさせる.時間に間に合わせるために,不眠不休でドライバーは輸送先まで飛ばす.目的地に到着しても,同様に小口の仕事をまとめて請け負う同業者がいて,荷物の積みおろしに待ち時間が発生.ようやく,自分の番が来ても,荷下ろしもドライバーが行う(コスト圧縮のため).待ち時間も含めて休めないわけだ.トラックが空になれば,今度は帰りの荷物をまたドライバーが積んで同じようにぶっ飛ばして帰る….

これで,事故が起きないわけがない.大量にドライバーを抱えている,あるいはドライバーに十分な休息を与えても十分採算が取れる業者がどこにいるのか.

運送業の所管である国土交通省はどうも現状を「過渡期」とみているようだ.行政サイドとしてはそういう態度でいるほかない,というのも分かるが,どう考えても,過渡期はいつまで経っても終わらないような気がする.もしくは相当先の話になるだろう.

物流業者全てがクロネコヤマトになれるわけじゃない.車でモノを運ぶということが持つ限界はあるのだ(少なくとも現状では).

顧客のニーズに企業が合わせてくれて,どんどん快適な消費生活ができるようになっている一方で,そういう生活を実現してくれる肉体労働者は,労働基準法なんてまるで無視の労働条件を強いられ,命を削ってでも欲しいものを運んでくれている.そういう人たちの存在をまず理解することが必要だろう.ぜったい馬鹿になんぞできないよ,これ見たら.そうして,自分たちの快適さの追求が他害労災(としか思えん,この手の事故は)をもたらし,巡り巡ってあなたの家族を死に追いやることにもなりかねない,少なくとも現状では,ということを消費者は肝に銘じなければならないだろう.