nonfiction:「ひきこもりを救え!!待ったなし!親子の壮絶な戦い」(NTV系『スーパーテレビ情報最前線』)

ひきこもりの子どもを集めて集団生活させ,学力の遅れと体力を取り戻させる私塾の話.
マイルドな「戸塚ヨットスクール」みたいなものか.
前半,14歳のひきこもりの子どもを父親が部屋から引きずりだし,殴る・蹴る・風呂場で水ぶっかけて家から寮へ叩き出す.父が,断腸の思いでこの時ばかり心を鬼にした,ということなのかもしれないが,これは明らかに児童虐待なんじゃないのか?「日常的に子どもに対してしているのかどうか」という留保部分はあるけれども.もっとも,この少年も「ひきこもっていた間,どんな努力をしていた?」という(やや詰問口調の)問いかけに「呼吸」と答えて「たわけ!」と叱られるようなタマではあった.
後半,19歳のひきこもりの子どもの親も殴る蹴る,で子どもに引導を渡そうとする.
見ていて,親の子どもへのコミュニケーションの取り方が決定的にへたくそ.
昨日まで,ひきこもりの子どもにただただおろおろするばかり,という親だったのだろうと推測される.だから,親自身がこの寮へ子どもを入れるという決断を,暴力という形でしか,子どもに分からせることができない,と短絡してしまうのだろう.
20050802追記
via:id:nekoneko:20050802#p1
「長田塾」が,かつての「入塾者」から損害賠償請求の訴えを起こされていたとのこと.

不当な暴力行為、プライバシー侵害
19歳男性「長田塾」を提訴

子どもの不登校、ひきこもり、非行の問題を、親になり代わって解決すると宣伝し、名古屋市内で親と子どもの「メンタルケア」の事業をしている「長田塾」(有限会社塾教育学院)とそれを主宰する長田百合子氏に対し、19歳の男性が不当な暴力的扱いとプライバシーの権利を侵害されたとして慰謝料の損害賠償を求める訴えを7月22日名古屋地裁に提起した。【名古屋支局】

 訴状によると、東北地方に住んでいた原告男性は、高校入学後すぐに不登校になり、その後自室にこもる状態になっていたが、01年8月(当時15歳)母親から依頼を受けた長田氏が若い屈強の男性補助者とNHKテレビの記者、カメラマンを伴って、原告男性の同意もなしに部屋に侵入し、恐怖に陥っている原告に長田氏の寮へ入所するよう迫り、そのようすを至近距離で撮影、録画させ、さらに補助者が缶コーヒーの缶を面前で握りつぶして腕力を誇示したうえ、「力ずくで連れて行くか、自分で歩いていくか」と脅迫して寮に入所することを同意させ連行した。原告はその後、二度寮から脱出を試みたが、連れ戻され、同年12月から約1カ月半、所持金がいっさいない状態で従業員に監視され、母親にもその所在を知らされず、アパートに一人軟禁された。不信を抱いた母親が弁護士に相談し、弁護士が長田氏側と交渉して原告をアパートから連れ出し、自宅に戻した。その間、NHKテレビが原告の部屋に長田氏らが侵入したときの修羅場の場面の録画をそのまま放映し、原告の実名と顔の映像を公表したため、原告は自宅に戻ってからも周囲の目が気になり、また、子育ての不安から惑わされたとはいえ、自分を寮に連行させた母への怒りや恨みで悩んだという。原告は現在アルバイトをしながら自活しており、他の子どもらの被害がくり返されたくないという思いで訴えることにした。(後略)
不登校新聞”Fonte”20050729
http://www.futoko.org/cgi/newsread/newsread.cgi?disc=newest&st=43&ed=43

長田塾では,常態的に暴力的な親子分離をしていた,ないしは親へのそそのかしをしていたということか.
エントリで「(親が)日常的に子どもに対して(暴力的な対応を)しているのか」と書いたものの,「日常的かどうかは関係ないか」と考え直していたところだった.
昨日のエントリでは,あえて塾側のことに言及しなかった.一つには,上記の記事のような,主宰者である長田氏による脅迫や暴力は映像では分からなかったから(結構な暴言はあった).テレビで放映される,ということを意識したふるまいだったのかもしれない(上記記事のような過去の経験を生かして,ということか).もう一つは,長田氏のやっていることへの世間的評価はどうであれ,藁をもすがる思いで長田氏に「支援」を受けようとする親の方に関心があったからだ.個人的には,ああいう暴力的切断のようなものが成功するのはよくて五分五分だろうと思うが,そんなリスキーな選択肢しか持てない親,それが最善と考えてしまう親とはどういう人なのだろう,という関心の方が強かったのである.
ついでに,長田氏のオフィシャルサイトも見学(http://www.mental-care.org/main.html).
どうも,長田氏は,

  • ひきこもりは甘え・怠けである
  • ひきこもる子の甘え・怠けをゆるす親がひきこもりを増長させる。だから「メンタルケア」と彼女が称する「親の激怒の誘発」でこの悪循環を断ち切らせる
  • 医師・心理職といった専門職が役割分担して対応する方法では,ひきこもりは解決できない*1

というふうに考えているようだ.
どうでもいいことだが,たとえばこの問題が「ひきこもり」ではなくて,「貧・病・争」で,「メンタルケア」が「修行」とか「多宝塔」とかで,「医師・心理職といった専門職」が「現代」とか,というように言葉の置き換えをしていったら,1つのストーリーとして読めてしまうのではないか.彼女の方法論を「オカルト」だとは言わないが,構造的には五十歩百歩の世界だろう.

*1:この主張の裏には自身の方法論に対する強烈な自負が「イヤ」というほど感じられる.