スクールソーシャルワーカー?

 購読している文部科学省の「初中教育ニュース」の最新号(77号)で,標題の「スクールソーシャルワーカー」についての記事が掲載されていた.
 先にあたしなりの考えを端的に言うと「なんで文部科学省=教育サイドは他領域にある資源をいちいち『スクールなんたら』で囲い込みせねばならんのだ?」ということである.
 同記事では,「平成20年度からの新規事業として「スクールソーシャルワーカー活用事業」を実施」するとのことで,

 言うまでもなく、児童生徒の問題行動の背景には様々な事情があり、様々な要因が絡んで問題行動が発生します。問題を起こす児童生徒に関係者が向き合い、対応を進めることがもちろん大切です。しかし、問題行動を起こす環境要因、例えば家庭内の問題、児童虐待、友人との不和など本人を取り巻く状況に着目し、それぞれの児童生徒の環境要因に働き掛けることで、本人の負担軽減を試みたり、周囲からの本人への一層の支援が行われるよう努めることも、同様に大切なことです。近年の都市化、少子高齢化核家族化等に伴う家庭や地域の教育力の低下は、こうした取組の重要性を更に高めているといえます。
 こうした福祉的な観点から、(中略)スクールソーシャルワーカーは「児童生徒が置かれている様々な環境に着目して働き掛けることができる人材や、学校内あるいは学校の枠を越えて、関係機関等との連携をより一層強化し、児童生徒の自立を促す役割を果たすコーディネーター的な存在」であるといえます。

というのがスクールソーシャルワーカーの役割であるとし,さらに,

 スクールソーシャルワーカーの職務上、社会福祉の専門性を有していることは望ましいことです。しかし、スクールソーシャルワーカーは児童生徒の問題に対応するものであり、高齢者や障害者への支援を中心にこれまで大きな成果を挙げてきている社会福祉の分野だけでは必ずしも対応しきれない面もあると考えられ、いわゆるソーシャルワーカーとは少し違うイメージがあるのも事実です。大切なことは、児童生徒への支援につなげたり、自ら児童生徒への支援を行うことであり、その意味では、教育現場における実績や経験等を有することもスクールソーシャルワーカーの重要な要素です。各地域において、どのような形でスクールソーシャルワーカーを活用し、スクールソーシャルワーカーにどのような役割を担わせるかで、求められる質や専門性も多少変わってくるものと思われます。
(強調部はあたしによる)

という.
 この事業を立案した方の現状認識については概ね理解できるし,問題行動を起こす児童生徒の「環境要因に働き掛け」ていくために,ソーシャルワーカーが幾許かの寄与ができるかもしれないとも思う.
 しかし,実際の事業の実施方法はともかく,上記記事からは,現に国家資格としてある社会福祉士を中心とするソーシャルワークを行う職種の人たちを活用するとはとても読めない.少なくとも寄稿者の考えには今,児童福祉をはじめとする現場で活動している社会福祉士たちを活用しようとの考えは無いように思われる.どう読んでも「教育現場における実績や経験等を有する」人,例えば教員OBの活用策という,コトの矮小化が匂ってきてしまう.
 先行してこのスクールソーシャルワーカーを配置している自治体もあるとのことだが,少しネットで探索してみたが事例を見つけられなかった.だから,上記記事寄稿者を当然含む文部科学省がどのような役割を件の人材に期待しているか分からない.それを承知であえて書くのだが,市町村に設置されている児童相談窓口や(場合によっては)児童相談所と学校・教育委員会の連携で対処していくことができないのだろうか?
 書いてみて思ったが,やっぱりできないだろうなぁ….やくしょ的には割合簡単に「関係機関との連携」を書いてしまうのだが,ミクロでは以前にも書いた(旧称)技術吏員と事務吏員の相克があるし,もう少し遠めで見ると福祉屋と教育屋はなぜか合わない.領域的には例えば障害児福祉と障害児教育───昔:特殊教育,今:特別支援教育───とは部分的には協力関係にあると言えるかもしれない.が,もともと教育屋さんは基本的によく言って「学校/教育の自治」悪く言えば「基本的には全てを自己完結的に処理する」思想があって,障害のある子どもに関しても,特別支援学校(旧特殊学校)の先生方は「就学から卒後までの支援」という視点に立って福祉屋との連携もあるが,普通学校では,そもそも「特別支援教育」そのものがお分かりになっていない方もたくさんお出でのように見受けられる.
 教育屋さんの自己完結性について,たかが一寒村の体験に基づく管見を一般化するつもりは毛頭ないが,たまたま,あたしの会社の社長は元・社会教育主事一代な人なのである.その社長の過去及び今の仕事ぶり,また,現・社会教育主事の仕事ぶりを見るにつけ,あたしは,社会教育とは「自分(=社会教育主事)のマイブームを仕事にできる」なんとも気楽な稼業としか思えない.
 「食育」というキーワードが出れば,高齢者学級に料理研究家を呼んで講演してもらい,「アサーション」ということばを発見すれば,カウンセラーを呼んでミニワークショップを開催したり,「児童虐待」が彼/彼女の中で気になる問題になれば「CAP(「子どもへの暴力防止」だったかな?)プログラム」の講習を受けて自ら啓発事業を「成人向け」に企画したり….最後に挙げたCAPについては,むしろ子ども向けにやるべきだし,学校教育の中で取り上げてみるという広がりがあっていいのではと思うのだが,教育委員会にはまた社会教育と学校教育という壁があるらしい(爆.いわく「社会教育には青少年教育も含まれていますが学校教育とは別です」だとか.そうかもしれないが….
 社会教育は結構,保健福祉屋さんの仕事とも関連があるのだが,あちらさんのスタンスは基本的に「そのテーマについてうちはうちでやってますから」って感じ.
 巡回先にさせていただいているlessorさんの日記(http://d.hatena.ne.jp/lessor/20080202)では,H19'から全国展開している「放課後子ども教室」の話が取り上げられていたが「いずこも同じ…」と嘆息.あたしは,一応文科省職員による地域説明会まで聴いてはみたが,結局のところ質疑応答でも福祉系の放課後児童クラブ(学童保育)とどう違うのか,どこまで重なっているのかについて,説明員から明確な回答は得られなかった(まぁこのときは寺脇研氏の講演が聴けりゃそれでいいと思っていたのでそれはそれでいいのだが).特に厚労省所管の学童との連携を突かれると,説明員は「それは各々の自治体に応じていろいろな形で展開されれば…」と汗をふきふき歯切れ悪く答弁しているのを見て「mextとmhlwご両者できちんと連携取れてるんですか?」と聞き返したくもなったのを覚えている.
 うちでは昨年,まちの遊休地を畑として,農家の方その他もろもろの「ボランティア」を得て,食育がらみで農業体験事業をやっていた.畑おこしや土壌改良は先に農政部局の担当者とアドバイザーの農家さんでやったらしく,種まきと収穫くらいしか子ども(と親)はタッチしなかったみたいだが….しかも,肥料やりすぎで収穫もよくなかったとか….まぁ,この話,あたしは畑おこしをその道の専門家がやってしまったところからすでに食育としては失敗している,と思ったのだけれど.
 今までの話は現主事だが,元主事の社長の政策も「「健康」と「観光」→「ヘルス・ツーリズム」「二地域居住」…」となかなか壮大なマイブームっぷりだ.手前どものオヤジをあまり悪くは言いたくないが,ここに大学とか民間シンクタンクとかが絡んでくると,俄然がんばりだしてくる社会教育主事の性.あくまで弊社での話ではあるが,弊社の主事は「偉いと思われたい」「教養を深め,無知蒙昧な人々を照らす光でありたい」というのが根本的な価値観のように思われる.最近でこそ,来年の選挙を念頭に置いてか社内で目撃することの多くなった社長だが,ちょっと前までは「出張のオーガ」だった.霞ヶ関,札幌,とにかく官庁参りからシンポジウムのパネリストまで,精力的に移動されていたようだ.社員の旅費を含む事務費は,年々削られていってるのに….
 話が脇にそれまくったが,あたしが勝手に考える教育屋さんの自己完結性を内側から壊すかのような「スクールソーシャルワーカー」は果たして現場に受け入れられるのだろうか?まぁ,福祉屋さんとしては「必要に応じ連携を密にして児童及びその保護者への支援を行うこととしたい」と胸襟を開いて臨む構えではある.