今日観たもの

ファン・ミンチョル『星から来た男』,2008,韓国.
鑑賞メーターでのコメントは→http://video.akahoshitakuya.com/v/B001TBUJ6Y

 人助けや(ちっぽけな)地球環境保護を嬉々として行う「スーパーマン(ネイティヴの発音が「シュッパメ〜ン」で『Dr.スランプ』を想起してしまう不覚)」を自称する男(ファン・ジョンミン).最初は「ネタ」として取材する映像ジャーナリスト(チョン・ジヒョン)が,スーパーマンの出自に関心を示していくうち,その「誕生」の秘密──男自身に訪れた二度の悲劇を知ることとなる.
 精神病院に連れ込まれ,薬物治療下の男はかつてのスーパーマンでなくなってしまい,彼自身がジャーナリストに出自を語り始める.名前はイ・ヒョンソク.妻子と車での移動中,交通事故に巻き込まれ彼だけが生き残り,横転した車の中で瀕死の妻子を救出しようとするが,手を貸さずただ現場を注視するばかりの野次馬たちの中で妻子を助けられずに死なせてしまう.これが第一の悲劇で,ここまで観て「これは高次脳機能障害をテーマにしているのか?」と思ったあたしはこの映画でのチョン・ジヒョンと五十歩百歩.
 男が悪党に頭の中に埋め込まれ,そのせいで超能力が使えなくなったのだと話す「クリプトナイト」(と彼が呼ぶ異物)は,実は彼が幼少期に受けた銃撃により脳内に残った銃弾だった.これが第二の悲劇.
 ここまでで2/3をネタバラシしてしまうので以降については書かない.だが,ドラマの核心は最後の1/3にある.
 チョン・ジヒョン演ずるジャーナリストが男と対極のリアリストで,彼が意識下に沈めてきた記憶を取り戻させることが彼のためと考え行動するのだが「それが彼にとって幸せかどうかは分からない」と答える精神科医の言葉は重い.
 エンドロール直前に「イ・ヒョンソク氏は1980年5月27日に自宅近くで銃撃を受けた」との文字が.モデルが実在した映画だったようだ(あたしの力不足で,モデルに関する記事まではあたることができなかった).直感的に光州事件とつながる.でも,この映画では,男の幼少期の再現シーンを除き光州事件を真正面から取り上げない.この捨象の意味も深い.
 上述したように,あたしは,高次脳機能障害の男が純真に振る舞う現代韓国のちょっといい話くらいの小さな世界を想像していた.しかし,実際はもっと大きな韓国現代史とも結びつく要素を持ったモチーフにもかかわらず,大風呂敷を広げずにミニマルなヒューマンドラマとして完結している.陳腐な言い方でホントに自分でイヤになるが感動の佳作.「ファン・ジョンミン,若い頃の渡辺徹に似てるね〜」「チョン・ジヒョン,しぐさがセクシーなんだよなぁ」などと寝ぼけたことを考えつつ観ていた36歳男も恥ずかしいけど涙した.観て損無し.