生活保護制度へのテレビ朝日のまなざし

 テレビ番組や雑誌への取材協力者募集サイトとして,「media park(メディアパーク)(https://member.mediapark.jp/)」というのがある.そこでは,メディアからの募集内容を定期的にメールマガジンの形で送信してくるのだが,その中にこういった募集があった.

テレビ朝日スーパーモーニング
 募集名:生活保護で気楽に暮らしている方募集!
 謝礼 :取材内容により応相談
 応募 :http://member.mediapark.jp/visitor/offerdetail/id/120080513005?MT
「media park メディアTODAY(2008/05/14号)」,強調部筆者

 で,詳細を見ると,

募集概要

募集コメント 定職につかず、生活保護を受けながら、悠々自適な生活を送っている人を募集。役所への申請のコツをご存知の方、貯金できるまでになった方特に募集しています。

エントリー条件

職業     会社・法人の経営者・役員,正社員,契約・派遣パート,アルバイト,公務員,自営・自由業,専業主婦,その他,年金受給者,お勤めされていない方

http://member.mediapark.jp/visitor/offerdetail/id/120080513005?MT,筆者にてレイアウトを改変し掲載項目を抜粋.強調部も筆者

とのこと.
 どこの制作会社の企画か分からんが,「エントリー条件」だけでお間抜けではないか.日本のどこに公務員の被保護者がいるんだろう?ちょっと前まで福祉の仕事をしていたが,全然想像つかない.
 加えて,募集コメントにある「貯金できるまでになった方」なんて出てきたら,フツーは生活保護廃止になるんだぞ?子どもの学資保険のような一部の積み立ては別だが.
 さらに,もしこの取材を受けてくれる奇特な人が出てきた場合,おそらくギャラを制作側は支払うことになるだろうが,金額の多寡は不明だがそれとて生活保護の実施機関に「収入認定」してもらわねばならないんだぞ?まぁ,制作会社側は安いギャラで出演してもらうんだろうが….
 もう,なんだか次のようなスジが見えてしまう.

  • <取材現場で>「あたしは悠々自適に生活保護ライフ,エンジョイしてますよ」「あら,それはすばらしいですねぇ(ヨイショ).その秘訣はなんですか?…そうですかぁ.大変貴重なご意見,ありがとうございました.これは,取材に対する謝礼ということで些少ではありますがお納めください…」というような終始和やかなムード.加えて,保護の実施機関の担当者にも取材.「こういう生活をしている生保の方がいるんですけど,おたくでは一体どういう生活保護行政してるんですか!」と世間の正義感を体現しているかのようなレポーターの糾弾の図も忘れない.

     ↓

  • <編集>取材協力者の発言・行為中,世間が「生活保護受けてるくせにそんなずるいことしやがって!」と憤りそうなところを中心につなぐ

     ↓

  • <オンエア>映像で「生活保護の実態」を見せてコメンテーターたちを呆れさせ「私たちの税金のむだ遣いでしょ!これは」という発言を引き出し「今後とも番組ではずさんな福祉行政の実態を追及していきます」と司会がしめる.

 なんだか,ここのワイドショーでは「進入禁止の時間帯に構わず車を乗り入れるドライバー」やらちょっと前は「飲食店街付近の駐車場を使い,飲酒したのにも関わらず駐車場から車を出そうとするドライバー」やらモラルの欠如・ルール無視を,いわば肴にして早朝から放談している,そんな感じ.そういう番組づくりに今度は,明らかに「善良な視聴者の感情を逆撫でする」映像を撮ってきて「ほら,福祉行政ってこんなにひどいんですよ」とまたも善良な視聴者を煽る,マッチポンプをやろうとしているようにしか思えない.その煽りが,結局,何に向かせようとしているのかは分からせないように.というか,作り手も分かってなくて,ただ視聴者の「怒り」を引き出して,次も見てちょ☆,てなところなんだろう.
 なんか取材協力者への募集内容一つとっても,この番組のスタッフは生活保護制度をそもそもよく分かってないように思われる.
 「悠々自適な生活を送っている」被保護者っていうのはどういう人か.なかなかイメージはつかないが,担当窓口にはよく匿名で「保護受けてる○○がパチンコ屋に出入りしてる」やら「××は頻繁に酒飲んでる」やらで「何とかしろ」というクレームが時折入ってくる.まぁ,仕事できる能力があるような人が,昼間っから酒びたりだったりパチンコ三昧だったりするのは保護の打ち切りも考えなきゃならないケースかもしれないが,生活保護制度そのものはそういう生活を禁じているわけではない.
 「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」という憲法の趣旨に沿って,何らかの理由があって働き手のいない対象世帯の構成人員から世帯単位の最低生活費を計算し,その世帯になんらかの収入があればそれを差し引いてお金で支給するのが,生活保護の保護費だ.そのお金は毎月支払われ,基本的にはその使途は制限されていない.だから,食事はごく質素にしてその分服装にこだわる人がいたって構わないし,たまには飲んだり遊んだりしたところで,支給されたお金の中でのやりくりなら何ら問題ない*1.ただ,今は「生活保護自立支援プログラム」というのが展開されていて,生活保護受給者の再就労に向けた取り組みがなされている(なかなか成果が出てないみたいだけど)ので,いつまでも生活保護が受けられるというわけでもない.また,生活保護に至った理由(たとえば病気が治って仕事が見つかった,とか)が解消されれば当然,生活保護は廃止される.
 どうも世間は,生活保護を受けている人に公務員同様「税金で食っている」という見方が強いが,そう捉えるよりも自分が何らかの理由で収入が途絶え,親族からの援助も得られないとき,最後に行使できる権利なのだといい加減分かって欲しい.
 たまたま北海道で架空の通院費を請求して2億円超を不正受給していた夫婦とか,視覚障害者を装って保護費の障害者加算を受けていたケースが明るみに出て,生活保護制度や実施機関である行政への不信感が出てきているのは分かるが,どこまでが適法な行為なのかや制度的に保障されているのかをきちんと伝えないで,いたずらに視聴者を煽るような報道は慎むべきではないのか.

*1:もちろん,車を所有してはいけない,といった生活面での制限はある.