「同一労働同一賃金」についての酩酊時メモ

 別にあたしが一応「自治労」所属だからこういうエントリをあげるのではない.素直に今まで思ってたことである.
 以下,あたしの周辺であたしが(なんとなく)見えている範囲での経験論みたいなもので,一般化できない質のものではあると思うのだけれど,昨今話題にされる「格差社会」ってものが,もう少し繊細に取り扱うべきものじゃないだろうかなぁと思ったのだ.
 このメモを書き始めるきっかけは,村上龍が主催するメールマガジンJMM』に寄稿している冷泉彰彦の6/14配信分.その中に,過日の秋葉原通り魔殺人事件の加害者に関しての

───それにしても、犯人を紹介する際に「25歳の派遣社員」という言い方は何とかならないのだろうか?
 この男は塗装工であって、派遣うんぬんというのは、契約上の雇用主が契約上の発注者との間で派遣契約を行っているだけのことであって、本人は立派な給与所得者であり、同時にやっていることは塗装工というプロフェッショナルの仕事のはずだ。それでも、社会的に「派遣社員25歳」という紹介がされるのは、月曜日版で水牛健太郎氏が指摘していたように、「身分制」があることの証拠だろう。それにしても、全国に何百万といる「派遣社員」はこうした呼称に対して真剣に怒っても良いのではないか?

というメモに反応したため.
 とりあえず,上記の問いに応答するなら,そもそも「塗装工というプロフェッショナル」の職能集団から加害者は派遣されていたわけじゃないだろう.
 にもかかわらず,彼は「派遣」としてその工程を担い,その工程に必要なスキルを実地で身に付けただけのこと.加えて,職人として身分が保障されていたわけでもなく,流動的な雇用環境の中で生計を立てるための金を稼がざるを得なかった.そういう意味では,マスコミ的にあぶり出したい構図としても,実際の労働環境としても,被差別層としての「派遣社員」ってあるんじゃないのか,と.単にそうした階級意識を持つ当事者たちがあまり多くないだけかもしれない(もちろん,派遣ユニオンのように組織化して運動している人たちもいるが).
 そして,今のところ,自らが派遣であることへの社会への怒りの表出方法が見つからないだけなのではないか,と思う.
 あたしの会社にも,派遣ではないけれども,正社員とほぼ同じ仕事をしているのに「臨時職員」として任期付採用されている人たちがいる.その人たち全てが同じ労働観に基づいた仕事をしているとは言わないが,中には,正規職員よりも担当業務に関する商品知識を持っている人もいる.
 また,ちょっとあたしの会社は特殊なのかもしれないが,そうした「臨職さん」の多くは女性であり,ひどくジェンダー・バイアスがかった物言いになることを敢えて言うが,「結婚相手を探すための腰掛け」というよりは「この地域で生活するために働く」というライフスタイルを選び取った人たち,なのだ.
 公務職場は,基本的に個人情報の塊を扱う場所であり,「コピーとお茶汲み」だけでいいとは言っても,茶を出す相手が誰なのか,誰のどういう情報に関するコピーを取るのか,ということは経験値を積めば積むほど分かってしまう.だから会社は,そういう情報をたくさん持っている人たちを毎年更新で「臨時職員」として採用せざるを得ない.実際,あたしがこの会社に入ったとき,最初の一週間で何をしなければならないかを知恵の無い頭で考えたとき,「電話には恐れず出よ」と「正社員ではない職場のメンバーに嫌われないようにしろ」ということだった.あんまりうまくいかなかったけど(爆
 繰り返すが,臨職さんのなかには,社員よりも商品知識・客あしらいのうまい人が当然いる.でも,待遇は「臨職だから」ということで,わずかながらの年功加算に甘んじて,うちの会社での仕事を続けているわけで.
 で,自治労という大馬鹿野郎の集まりは「同一労働同一賃金」という,スヴァラシイお題目を掲げて近年,ちょいちょいパートの人たちの待遇改善を図ってきた,という.しかし,末端の組織を見ると,実際には「とにかく人手が足りないところは臨職で埋めよう」が労使ともにあるだけで,結局「○人工」という「労働量」に置き換えられた人の取り合いという議論にしかならない.業務の性質にはほとんど注意が払われない.まぁ,それは世間一般の役所に対する考え方も一緒だが(だったら役所という役所全て解散して,困ったら近所同士で話し合っていろいろやったらそれも面白いのに…と思うが誰もそういうアナーキーな発想にはならないんだよね).
 ちなみに,あたしの向かいに座ってる女の子は,もともとは牛の繁殖を中心とした生育に関する仕事をしたいと思って,うちの会社に臨時職員として採用された.今じゃ,医療事務もこなせるスペシャリストになっている.正社員のあたしが恥ずかしいくらい.なのに,金目も休みも圧倒的に彼女は少ない.あたし,自分が休むと申し訳なく思っちゃうもん.
 彼女のようなコばっかじゃなくて,な〜んにもしないでただ年ばっかくって情報だけたくさん抱え込んでる,っていう切るに切れない人もいないことはないが,自分たちをも凌駕する仕事量こなしてたりするような人たちに対して,労組ってところは「臨職を運動に組み込むなら,臨職を組織化しなきゃならないから」とかなんとか言って「それにはしかるべき段階での組織の判断が必要」とかいってちっとも状況は改善されないんだからなぁ….
 あたし思うに,あたいらの人件費を切って事業に投入するがよし,とも思うが,へたな社員よりよく働いてる人に仕事に見合った賃金・給料を支払ったり身分保障したりってことも大事だと思うんだけどな.*1

*1:あまりにひどい構成・表現だったので,2008/6/17修正.