清水義範,2004『大人のための文章教室』講談社現代新書.

あとがきに書いてあるとおり,この本は『文章読本』ではない.とにかく「伝えたいことを伝える」ための文章表現に絞って書かれている.口語体/文語体の統一や句読点による文のリズムづくりといったわりと基本的(自分で書いていて冷や汗が出るが…)な読ませるための技術から,紀行文・実用文といったジャンルごとの文章表現のテクニックについてきわめて平明に書かれている.
個人的には第7講の「近寄ってはいけない文章」が身につまされるというかなんというか….論文/公用文書/新聞記事が,その業界の方言によって綴られていて「訛っている」と指摘し,伝えたいことを伝えたい文章の模範としてはいけないものとして挙げられている.
公用文に限ってならば,一応その業界の末席を汚している側から言わせてもらうと,公用文を書くのは非常に難しい.「文書事務」という一ジャンルがあるくらいで,構成や用字・用語も一定のルールがある.そういうルールにのっとった文章にすることで簡潔に表現でき,行政機関どうしの意思疎通が円滑にできる,誤読の可能性も少なくなるといった業務上効果的な表現ではあるのだけれど,そのルールを同じくしていない人にとってみれば読みにくい文章であることはたしかだと思う.また,効率性のみが至上価値というわけでもなく「細大漏らさず」ということも基本にあり,文書にしたことは原則として実施しなければならず,行政機関として手をつけたくない部分は文書にしてはならず(これはどの業界でもそうかもしれないが),といった表現以前の縛りもある.
ちょうど,今,行政機関による地域行動計画の素案づくりで毎日作文しているところだが,「お金は出せない(予算配分できない)けど,みんなに広く知ってもらう必要があること」については「普及・啓発を図ります」を繰り返す.「やりたい/みんな「やってほしい」と思っているけど,今すぐにはできない事業」については「計画期間内に検討します」という文言が濫発される.ときどき,イヤになります.