読了:安藤鶴夫『三木助歳時記』
「アンツル」絶筆となった新聞連載小説.
あたしは,この人の本を読んだのは初めてだと思うが,演芸評あたりからはじめればよかったのかなぁ….
- 作者: 安藤鶴夫
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/03/04
- メディア: 文庫
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それはさておき,三木助なり登場人物の身なり・拵えとかの描写が,読む人が読めば鮮明に想起できるのだろうけど,分からないから,つつっと流れてしまって,なんか惜しい気がした.昭和40年代の作品ではあるけれど,あたしのような若輩者には注釈とか欲しかった.
物語は,三木助が自分の死を覚悟して,家族や弟子,噺家たちを呼び寄せる場面から始まり,駆け出しの噺家でありながら「隼の七」の異名を取って博打に明け暮れる(といっても小説の中ではそう長々と描写はされないが)二十歳の三木助,関東大震災に被災したことがきっかけで抱く自身の出生の謎,そして放蕩の末にたどり着いた恋女房と愛しき子どもたちとの生活の中で落語に向き合う三木助が描かれていく.
終盤にさしかかって,自身に迫ってくる死の影に相対して,最愛の妻や子どもたちを残して先に逝くことへのおそれを感じざるを得ない三木助が,長女の,おそらくは頑是ないことばに我を忘れて動揺してしまう.そんなところで,作品は終わってしまう.
アンツルの文章はみなこういうものなのか分からないが,読点が多くて読むリズムがなかなか難しいのだが,結局,一気に読んでしまったのは,あたし自身が志ん生とは違う無頼派・三木助(知っているわけではないけれど)の生き様を知りたかったというのもあるだろうし,自身も「近藤亀雄」として出てくるアンツルが,三木助に託して自身の死に対峙した結果としての作品としてこの小説が書かれたからこそ,途中で読むのを止められなかったように思う.それくらい,この作品は全編,死の印象がつきまとう.
一方で「男は女で変わる」かもしれない,そこに気付くのは人それぞれだが,というあまり認めたくはないが端的な事実も描かれているように思う.そう思わせないように,友情や師弟愛をそこここにちりばめてはあるのだが,何にもまして,迷う自分や軌道を変えられない自分に引導を渡してくれる女性,自分が帰ってくることを認めてくれる人や場所である女性に巡り会えることこそが男冥利に尽きる――そういうことをか弱き男たちに昭和の目線で語りかけているようにも思った.