帰りたいのに帰れない…

 家ではいつもTシャツ+トランクスで過ごしているあたし.
 先日,風呂場の方から茶の間へ戻ろうとしたところ,閉めた取っ手型のドアノブにトランクスの端っこが引っかかり,見事に左サイドが裂けた.なんだか,思いっきり短いチャイナドレスのスリットのような感じになってしまった.風景的にも感覚的にもあまりに風通しのよいデザインになったので,このトランクスはお役ご免と相成った次第.
 以上,本編とはまったく関係のない話.
 木曜日.
 あたしの担当の恒例イベントである保険証の更新作業からようやっと解放され,定時退社後,家で酒を飲みつつメシを食いつつしていると,会社の後輩から「今飲んでるんで,来ませんか?つーか,先輩が『来い』って言ってますよ」との電話.しかも,会場が行きつけの居酒屋で,マスター自らあたしん家まで迎えに来てくれるという.これでは,是非なくお伺いせざるを得ず.
 結局,その店で1時間半ほど飲む.ちなみに,声をかけられた理由は「ゴールデンウィークに猿払にキャンプに行くぞ」ということで,強制参加が決定したことの伝達式のようなものだった.猿払行き(イトウ釣りツアー)は約10年ぶり.その時も黄金週間中だったが,強風と寒さだけが記憶にある.今回も絶対寒いと思う….
 その後,裏のスナックに河岸を変えて2時間ほど飲んで歌っていた.奥の席で,ライオンズクラブの方々が歓送迎会のようなことをしていて,ライオンズの万歳が両手を前に突き出しての「ウォー」三唱であることを知った.
 店を出て,同じ方向の先輩と一緒に歩いて帰ってきた.
 自宅の玄関先まで来たところで「ん?家の鍵がない!」とパニック状態に.どのポケットにもない.これは,さっきのスナックに忘れてきたのだな…と今来た道を引き返して戻ってみると店は閉店していた.仕方なく,また自宅へと向かう.
 時間が24:00を超えていたので,近所に会社の同僚はたくさんいるものの尋ねるわけにもいかず,泥酔していたあたしは「今晩は物置で寝よう.明日,このまんま仕事に行けばいい」と自宅物置に入ってうずくまり,眠った.
 それから2時間くらい経ったか,猛烈な足の冷たさに寝ていられなくなった.はだしにサンダルだったから.足の寒さはすぐに全身まで来る.
 「とりあえず家にはいるしかない」そう思ったあたしは,物置にあった金槌を使い,郵便受けからこれを中に入れて鍵に引っかけて開けようとしばらくやってみる.しかし,いかんせん柄の長さが短く,鍵まで届かない.
 なら,ドアにはまっている磨りガラスを金槌で割って入ろう,とガラスを殴りにかかったが,全然割れない.どうもガラスの手前にアクリル板が入っていたようだ.
 そこで,最終手段と考えたのが,郵便受けをこじ開けてそこに手を突っ込んで鍵を開けるというものだった.あたしは,下手な女子より細い腕なのでこれは可能だと思った.
 さっそく,金槌の柄で郵便受けの金属を押し広げていく.ドアの中では,郵便受けのプラスチック部が割れ,ドア本体も壊れて木屑が飛ぶ.一度手を入れてみたが手首の部分で止まってしまい,届かない.さらに郵便受けをこじ開けていく.この間,挙動不審な男として近所に通報されてしまうのではとかなり不安な気持ちになりながら作業を続けた.
 やっと手首より下の部分が入るくらいになったので,気合一発,ドアノブへと手を伸ばすと,左手の人差し指に鍵の感覚.その指を押し下げると,やっとご開帳となった.3:30過ぎのことだった.
 足先の感覚が無くなっていたので,とりあえず着替えてこたつに足を突っ込んで寝ようとズボンを脱ぐと「ガシャッ」という音が.そのとき穿いていたカーゴパンツのふだんあまり使わないポケットに入っていた….鍵が….
 取りあえず寝よう,それだけしか考えられなかった.
 一眠りして起きると,ドアはあまりにも無惨な姿になっていた.社宅なのに!どうしたらいいんだ!という悔恨が怒濤のように押し寄せてきた.
 ちなみに会社の友人には「よかったじゃん!もう鍵なくても家には入れるよ!」「つーか,取られるものなんてないから,鍵なんかかけなくていいじゃん」等々の貴重なご意見を頂いた.