最近流し読みしたもの

中島らも『らも咄』角川文庫.

1991年の単行本を1994年に文庫化.購入した当時は「中島らもの本」という感覚でしか読んでなかったが,今読み返してみると「あ,これはこの古典が下敷きになってるのか」というのが最近の学習の成果で分かる.例えば「ゆかの下」は「らくだ」とか「黄金餅」とかの複合体.また「おげれつ指南」は「欠伸指南」だ,という具合に.古典の翻案だから面白くないかと言われればそんなことはもちろんない.何が言いたいかと言うと,中島らもに古典に対する深い造詣があったからこそ,そういう芸当が可能だったのだということ.引っ越し後の荷解きをしていたところで見つけた(前々回の引っ越しで荷造りしたまんまだった)ものだが,『愛をひっかけるための釘』とか『獏の食べのこし』(いずれも集英社文庫)といった中島流恋愛エッセイの類がどうも見当たらない.これはそのうち探してみる(それにしても,そうした惚れたはれたの話がかなり縁遠くなったのは,歳のせいだろうか).

田島昭宇×大塚英志『多重人格探偵サイコ(10)』角川書店

最新刊.すでに探偵モノではなくなっている.

猪野健治『やくざ戦後史』ちくま文庫

これも荷解き発見本だが,中途で投げていたもの.山口組4代目跡目相続を契機とした山一戦争あたりまでが書かれている.著者は転向の人なのだろうか,戦後いわゆるやくざたちが文字通り体を張って庶民の生活のために奔走したにもかかわらず,日共は彼らをプロレタリアート獅子身中の虫のごとくしか扱わず,とうに時代遅れになってから「中核自衛隊」といった武装闘争路線に転換したことなどを手厳しく批判している.いわゆるやくざが,河野一郎大野伴睦といった保守政党・党人派により,今日の日米安保体制を形成するための駒として権力にからめとられていったかが分かる.ただ,以前途中で読み止めたのと同様に,序盤にそうした裏戦後史的なものが長すぎて「仁義なき戦い」のようなやくざの論理や息づかいが感じられる叙述があまりないため,読了が困難.通史の一部を求めている人には有用な1冊だが,ボキが読みたいのは地域史だったり「○○組小史」だったりなので.