リリー・フランキー『増量・誰も知らない名言集』幻冬舎文庫.

リリー・フランキーと言えば,近頃は『東京タワー』の作者で,次の作品は直木賞候補か?のような感じ,かどうかは知らないが,私にとっては『日本のみなさんさようなら』(情報センター出版局→文春文庫PLUS)に始まり,『女子の生きざま』(新潮OH!文庫),そして本書である.
上記3作品は,通勤・通学の移動手段では読まないことをおすすめする.数年前,東京に出た際に暇つぶしに買った『女子の生きざま』は,爆笑に継ぐ爆笑で,地下鉄や山梨行きの中央線で笑いを堪えるのに死にそうな思いをした.おかげで,山梨では母校のコンサートでのラッパ演奏の前に完全に腹筋がやられてしまって,まともな演奏ができなかった(通常でもダメダメなのに(爆)).
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私が好きなエピソードは,自分自身への性的嫌悪がこじれにこじれ入院してしまったリリー氏の女友達が,その入院先の医師から受けた「(自分の性器に)手紙を書きなさい」という治療を巡る1章.エピソードにも爆笑したが,リリー氏は,この「名言」に「性を見つめた男,メルヒュンな御言葉」とのキャプションを付けた.これにも大爆笑.どうしてこういうフレーズがさらっと出てくるのか.
また,たぶん文庫版での増量分である,リリー氏の小学生の頃の席替えエピソード.男子・女子にそれぞれ好きな異性の名前を3人書き出させそれを考慮した座席を指定する,という担任の指示にリリー氏は,クラスのツートップ+ちょっと気になるコを書いた.隣に座ることになったのは,そのちょっと気になるコ.「自分で選んだ道なれど,なぜか釈然としないこの想い」のリリー氏は,そのちょっと気になるコにどんどん邪険になっていく.最初は照れながら微笑んでいた隣の席のコからやがて笑みが消え,ある日,このコからリリー氏は衝撃の告白を受ける.「わたし,リリーくんの名前書いてないんだよ……」興味がないのにお相手されていたのは,リリー氏の方だったという悲劇.この発言の後の「ちょっと気になるコ」の名言は,男なら「ボクたちの失敗…」のようなどこかに置き忘れてきた切ない痛みを呼び起こすことと思う.
リリー・フランキーの作品を読んで思うのは,「乾いているけど面白すぎる」ということ.「乾き」というのは1つ1つのエピソードに拘泥しないドライさだったり,善悪への無頓着さ(全く頓着していないわけではないけれど)だったりである.実際のところ,ここに収められている「名言」発するところに遭遇した場合,とてもじゃないがリリー氏のようなリアクションは取れないだろうし,この作品のようなフレーズ選びで他人に表現できはしないだろう.たぶん,彼はその他人ができないことをおそらくは表情一つ変えず淡々と文字にしているはず(『ココリコミラクルタイプ』での氏の様子を想起してほしい).そういう執筆風景を思い浮かべても笑える.