ホリエモン逮捕,そしてマスコミ・世間の反応について

 テレ朝の報道を見ていると,1949年の「光クラブ」の山崎晃嗣ホリエモンに,価値観の共通性を見いだす指摘がなされている.そういう視点自体は───語弊があるが───「面白い」と言えるけれども,事件の構造という観点からは,光クラブライブドアでは全く異なるように思えてならない.
 そう書いておきながら,私が知る山崎晃嗣とは,実際のところは,ネット上の秀逸な事件データベースである「無限回廊」(http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/)の記述くらいである(「光クラブ」事件については,http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/hikari.htm).三島由紀夫の『青の時代』は読んだことがないし,高木彬光の『白昼の死角』は小学生の頃,家の本棚にあったのをパラパラめくった程度で内容は分からなかった.保阪正康が昨年上梓した『新説光クラブ事件』も買おうと思っていたが忘れていた.…まぁ,そんなことはどうでもいいのだけれど.
 山崎は,上述の「無限回廊」の記すところによれば,筋金入りの合理主義者で己の知性に恃むところすこぶる厚く,いわゆる天才だと言える.戦中・戦後の混乱期にあって山崎は,おそらく「信頼」だとか「誠意」とかいった価値や情緒を当てにならないものとして捨て切った.そして,自分の知性を試してみる目的で「光クラブ」という高利貸しを始めた.自分の知力で世の中を自由に操作しうる,と考えたこと自体は,よく言えば純真,悪く言えば幼児的万能感から抜け出ることができなかったことの現れだろう.
 幼児的万能感という点で言えば,ホリエモンにもそういう部分を見いだすことができるかもしれない.「金で買えないものは無い」という思想は,まぁ,まともに反論するのも反論する側のお里が知れるような,素敵なお考えである.「livedoorを世界一の会社に」という目標も,子どもっぽさ100%である.
 ただ,山崎と堀江では,知力に雲泥の差がある.山崎は,物価統制法違反の嫌疑で警察に拘留されたために,釈放後,光クラブの経営に危機を感じた出資者たちの債権取り立てにあい,返済期限を延期することができたのにあえてせず,青酸カリによる服毒自殺を選んだ.死の直前まで,出資者をからかうような,あるいは自らの破滅を嘲笑するような遺書を書き続けながら山崎は死んでいる.自身の知性への挑戦を闇金融というフィールドで始めようとした山崎には,絶望感や虚無感があったように思われる.徹底した合理主義とニヒリズムが反社会性へと向かって行った,そんな部分に山崎の天才を感じる.
 ホリエモンには,その点,ほとんど知性を感じない.球団買収騒動やニッポン放送買収騒動の際,マスコミに求められ応じるホリエモンのコメントは,論理的というよりは「どうして分かってくれないんですか」という駄々をこねているだけにしか思えなかった.その駄々っ子ぶりが不快に感じたかと言えば,実際のところはそうではなく,私にとっては「こういう子どもっぽさを煽るだけで受け止める度量のないマスコミ,世間ってヤツはどうも…」という印象だった.
 私は,自分自身の思考・行動が「子ども」であることを認めている.世渡りなんてバカらしい,と友人たちに話すこともある.しかし,一方ではその自分の核である「子どもっぽさ」だけでは,生きてはいけない,とも分かっている.もし,自分が幼児的万能感を全面に押し出して行く生き方を貫いていたなら,地方の小役人などという選択などありえなかったし,能力的には遥かに劣るが山崎のような生き方を選んでいたかもしれない.…まぁ,どうでもいいことだけれど.
 ホリエモンは「起業しようぜ」というサークルノリで事を始め,「会社を作ったら大きくしていこうぜ」で企業買収により自社グループを拡大していった.また,そういう子どもっぽいノリを「それ,面白いね」と支える仲間が多くいたはずだ.事業を金銭的価値で拡大していくうちに,ホリエモン率いるライブドアは,自分たちが商品として提供する財とは何かについて考察する機会をおそらく失っていったのではないか.ライブドアポータルサイトYahoo!に酷似したつくりになっているとか,新たに立ち上げたSNSがこれまたmixiのサイトイメージそっくりだ,とかいうのも,自分たちが提供する商品にオリジナリティなんか不要,取って付けあるいはパクリで構わない,我々が目指すのは世界一の会社なんだ,というお題目への献身にすり変わっていったことの証左のように思える.あるいは,最初から商品という発想自体がなかったのかもしれない.
 だからなのか,ライブドア強制捜査が入ってから,今なお,事件を人ごとのようにサイトで特集を組んだりして報じている.取締役4人が逮捕される,という異常事態に会社が麻痺状態に陥っているとも言えるが,毎日利用者にはメールを送ってくるのだから,そこに一文でもいいから社としての対応を表明すべきだと思った.この会社の広報はいったい何をやっているんだよ乙部女史,とでも言いたくなる.
 ホリエモンの稚気が,時代状況を変えた側面はたしかにあって,それはプロ野球が1リーグ制に再編されるのを阻止したというのは一つの功績だったと思う.結果として,自らは球団オーナーにはなれなかったが.私は,ホリエモンが露払いした後に球団買収成功,TBS株大量取得と後追い行動で実をあげている楽天よりは,ホリエモンの挫折の方がよっぽどシンパシーを感じる.ミキティは大人なのかもしれんが,つまらねぇ野郎だい,と思う.
 その稚気だけで,さしたる能力もないのに山崎と比肩されるほどのトリックスターにまで上り詰めたホリエモン.しかし,その地位とて,マスコミが「いつか叩いてやれ」との思いで持ち上げ,また,ホリエモンの部下たちが煽り,世間がやっかみつつも勝ち馬に乗るがごとく賞賛した結果の勘違いであったように思う.ホリエモン逮捕により,マスコミは「43畳ののヒルズから3畳の独居房へ」「ホリエモン無一文」とバッシング総動員体制に突入し,その急降下を世間は「ざまぁみろ」と楽しんでいるように見える.だが,この堕ちたカリスマは,人のすること・つくることを金という量ではかる,おそらくはどの会社でも蔓延している思想に毒されている私を含めた「勝てない凡人」たちが造り出した虚像であったことを肝に銘じるべきであろう.