札幌にて

 いくつかのエピソードをば.

ラーメン屋で

 女史と一緒に夕食ということで入った,ホテルの近くのラーメン屋.店内には,芸能人のサインやオーナーとタレントのツーショットが並ぶ.店内には,客の中国語が飛び交っていた.観光客向けの店である.
 僕たちは,カウンターではない大きなテーブル席に座った.気にしてはいなかったが,僕の目の前は,「化粧室」だった.
 注文をするとクイック・レスポンスというか,すぐにテーブルにラーメンが出された.別段,うまいわけではないけれど,一心不乱に麺を啜りこんでいた.
 すると,気付かないうちに女性が化粧室から出てきた.なぜか,ドアを開け放ったままで.
 その人は,戻ってドアを締める様子はまるでなく,店員もトイレが開け放たれているのにしばらく気付かない.隣の女史に「軽いいやがらせなのかな?」と言いつつ,僕は立ち上がってドアを締めた.気付いた女性の店員が「申し訳ございません」と言った.
 その後,別の男性がまた化粧室に入り,そして出ていった.戸は開けっ放し.隣の女史に「これ,最近,流行ってるのかな?」と笑いながら話して,また立ち上がろうとしたとき,女性店員が先にドアを締めに行った.
 女性店員が「香港からのお客さんのようで,日本語が分からないので注意しようがないんですよ.向こうの方の習慣なんでしょうかね?」と話し掛けてきた.「そうかもしれませんね」とだけ僕は答えた.
 僕は女史に「『閉扉』とか書いて客に伝えることできないのかなぁ」と話すと,女史は「これから雪まつりとかあるのにね」と答えた.女性店員の「ガイジンだからしょうがない」みたいな応対に,違和感を,僕は抱いた.
 また,別の女性が化粧室へと消えた.しばらくののち女性が出てきた.今度はドアを締めてくれた.

交差点で

 札幌駅へ向かう途中の横断歩道.「歩車分離信号」とかいうことで,車の流れと人の流れが完全に分離されている.
 車の往来が済み,歩行者の時間に切り替わるタイムラグに,向こう側から手を繋いでつかつかとこちらに向かってくる20代前半と思しき男女.
 女の子の方は「いつ死んでもおかしくないねうちは〜」とか言いながら僕の横を通り過ぎていった.ヤンキーじゃないんだろうけどそれ風の身なり.男のフリースの右ポケットに左手を突っ込んでいた.男は女の子の会話に特に答えはしていなかった.やけに目の座った感じで,半開きの口からがたがたでぼろぼろな歯が見えていた.
 隣の女史に「なんかクスリとかやってそうな感じだったよね?」と言うと「そういうの分かるの?」と逆に尋ねられ「いや,当たってるかどうか分からないけどなんかそういう風に見えただけだけど」と返した.

家電量販店で

 明日試験だというのに,時計をしてくるのを忘れ,「100均で売ってたら」と探したものの見つからず,同じ建物の中にあるビックカメラで時計を物色.
 いろいろと妥協と妥協,そして妥協をを重ねて決めた商品を持ってレジへ行くと,これも20代前半と思しき男女.女性は水商売系,男は,小柄なヤンキー系.前を開けた白のダウンジャケットで着膨れした上半身と,腰ばきにしているジーンズ,重心が後ろにあってふんぞり返っているような立ち姿だった.
 その男の前に,万札がずらりと並ぶ.レジの店員と何か話をしている.店員が指差しながら話している先にROLEXの売り場があった.そこで男がお買い上げしたらしい.
 店員が男に「それでは現金で59万円,お預かりいたしました」と話すのを耳にする.オッツ!あるところにはあるのだなぁ,カタギっぽくない風体だもんな,などと一人思っていた.
 二人がレジを後にして,僕は自分の選んだ商品を差し出した.
 「え〜,1,050円になります」(涙)

ホテルの部屋で

 こういうところには必ず聖書がある.ちなみに,アパグループのホテルだと,派手派手女性社長の旦那さんの経営論の書籍がある.
 別にクリスチャンではないけれどちらっと見てみようかと思い引っ張りだし,表紙をめくるとメモが出てきた.

  • 武2.8
  • ユニ1
  • アイク1

  • アース0.5
  • スカイ0.5
  • プロ0.3

 ところどころに×がされていたり,末梢線が引かれている.
 「単位:10万円」「単位:100万円」でないことを祈りたい.合掌.