中島らも,2004『酒気帯び車椅子』集英社

遺作となった1冊.
作品中のエピソードやフレーズには,そうとう既視感がある.「家族の団欒」と言えばうどん打ち(『超老伝』.もっともあちらは擬似家族だが)とか,靴を履く習慣のない部族を発見した際の靴メーカー営業マンのリアクションに見る商人のあり方(これはエッセイで出てきたように思う)とか.主人公が(元)アルコール依存症,というのも『今夜,すべてのバーで』『ガダラの豚』などよく使われた設定.
かといって「つまらない」わけではない.中島らもらしいストーリーの緩急があり,暴力描写も『ガダラ…』より凄惨で「著者初のヴァイオレンス」というのも肯ける(愛する者が凌辱され虐殺される,なんていう場面はこれまでの中島らも作品にはなかった).当方が「中島ワールド」に長く親しんできたせいかもしれないが,表現のほとんどを視覚化できて一気に読めるエンターテインメントであり,正に中島らもの面目躍如.
「う〜ん,マンダム」と思ったことも1つ.チャールズ・ブロンソン作品とモチーフが重なったということなんだけど.
いずれにせよ佳作であり,出所後のリハビリとしては(漏れが言うのもおこがましいが)十分な出来だろう.それだけに,もう「らも作品」が読めないのは本当に…止そう.